日伊修好150周年記念国際交流芸術展にむけて

ごあいさつ 『僥倖』

 この度、イタリア・フィレンツェという芸術にゆかりのある場所で縁がありました。日伊修好百五十周年記念を祝し、日本側より髙天麗舟・髙堂巓古・嵯峨野静篁・鴻池藍泰の四氏を国際交流作家として選出いたしました。
 来春には欧州へ向け書作品を出品する運びになっています。選出された方々には小品を制作する上での学びの場にもなります。
 今後は、本展(日本展)と選抜展(海外展)の二本立てで泰永展とその作家による活動開催になります。
 とかく、海外展は郵送費に関税が加わり中間業者のマージンも発生し、多額の出費が常識です。幸い業者もなく、作品を小品にして出費をできるだけおさえることが叶います。これを僥倖として受け入れ、自己ベストの上に個々の人生としてのよすがになればと考えています。
                                    野尻 泰煌




トスカーナの息吹

 

紀元前の先住民族エトルリアが存在したイタリア中部地方。

 その高度な文明・文化を模倣した古代ローマ人が彼らを「トスキイ」と呼んだことから、『エトルリア人の土地』を意味するトスカーナと名付けられた。

 

 ルネサンス期に台頭したメディチ家の末裔コジモ・デ・メディチはトスカーナ大公としてピッティ宮殿、政庁舎、ヴァザーリの回廊など、今日のフィレンツェの景観を築き明けた。メディチ家断絶以降、トスカーナ大公国はハプスブルク=ロートリンゲン家に継承されている。

 

 メディチ家の美術コレクションがトスカーナ政府に寄贈されると、政庁舎は美術館としての色合いを強める。ハプスブルク=ロートリンゲン家のレオポルド1世の時代から一般大衆にも公開されるようになり、現在のウフィツィ美術館へと継承される。

 

 同美術館を取材で訪問すると館長室の壁面は渋めの赤色。アントニオ・ナターリ館長が纏ったジャケットのモスグリーンに、イタリア国旗を連想しながら笑顔で手を差し出した。ダ・ヴィンチ作「受胎告知」の日本への貸し出しに異議を唱えていると一部報道が取り上げた為、ジャーナリスト魂に火がつきフィレンツェ行きの航空券を手配したのが2007年。

 

 「作品がフィレンツェにとどまり、一般に公開されること」

 

かつてトスカーナ政府は、メディチ家の条件を承諾することで、膨大なコレクションを手に入れた。ナターリ館長は冬至、長距離を航空便で運搬するには繊細かつ貴重過ぎると物理的な理由で懸念を表明したと報じられているが、「日本への貸し出しはメディチ家の意向に背く。私は日本に貸し出すよりもフィレンツェ近郊の地域活性に役立てるべきだと思っている。」と饒舌に述べたており、それは私が予想したコメントだった。

 

 2007年「日本におけるイタリア2007・春」は、政府機関、イタリア企業団体が同国の現代を紹介する様々なプロモーションの影響を受け、日伊両国において文化芸術の交流企画が多数催された。

 

泰永会代表 野尻泰煌も720日~22日ヴェローナで催されたグループ展に【三八尺・白楽天・早春獨初遊曲江・隷書】を出展しており、同国に初めてその足跡を刻んでいる。

 

 201110月には首都ローマのフォーリ・インペリアーリ博物館でのグループ展に出展。イタリアでの盛名を馳せ、日伊国交解説150周年の節目を迎える本年はトリノ国立映画博物館やフィレンツェ県インプルネータの美術協会に友好の証として野尻作品が寄贈されている。

 

オリーブと葡萄畑に囲まれたトスカーナ州フィレンツェ県インプルネータ。キャンティ地方のヴィレッジに芸術コミュニティが創設されたのは2002年。

 

文化協会は絵画、彫刻、写真、文学と四分野でセクションを分け、120人のアーティストが所属している。研究機関である「アルテ・アルテ」は、シンポジウム、講演など各種イベントを開催。併せて出版物を発行してきた。

 

そして、20089月には協会の所有する新たな展示空間としてIACギャラリーがオープンすると、国内外で多くの展覧会が実現する。本年1126日から1210日まで同所で開催される国際展には、野尻と泰永書会の選抜書家が招待されており、高天麗舟・鴻池藍泰・高堂巓古・嵯峨野靜篁、四氏の作品は既に現地へと輸送されている。

 

 泰永書展は1990年第一回展以来既に四半世紀を経過し、本年は27回目の開催を迎える。

 

 野尻は、陶芸や描画、執筆に作曲と幅広い創作に取り組み、官制を研磨し独自の作風を追及してきた。泰永書会門下には野尻の思想や哲学に共鳴した駿才が集い、会誌からも書論、芸術論に加え時事の雑感や小説等が盛り込まれる工夫など、他の書道会とは一線を画す多面的視点と多角的思考を垣間見ることができる。

 

 このたび東京芸術劇場にて催される第27回展は、国交開設150年を記念し、イタリア・インプルネータ芸術文化協会との交流展として開催される。

 

 同協会の代表者は彫刻家のフランチェスコ・バタリーニFrancesco Battaglini氏。1981年生まれ、35歳の若さで組織の二代目“長”を担う。初代会長のロレダーナ・リッツァルトLoredana Rizzetto氏、そしてトスカーナに魅了され移住したニューヨーク州バッファロー出身の米国人女流画家シルヴィア・テリSylvia Teri氏の作品からもインプルネータの息吹を感じていただけるだろう。

 

 また、ウィーン西側のサンクトポルテン芸術協会からも代表者エルネスト・キンツル氏の作品が出展され本展に華を添える。

 

 サンクトポルテンは岡山県倉敷市と姉妹都市関係にある為、20143月倉敷市立美術館にて同協会のアーティスト作品を日本に紹介したところ好評を賜り、同年8月には茨城県つくば美術館でも展示している。この両企画にはホスト国を代表となる野尻が出展していたことから、この度の東京池袋芸術劇場開催は三度目の共演となる。

 

 神聖ローマ帝国皇帝に選出されたルドルフⅠ世以降ハプスブルク家が欧州に君臨した時代の都ウィーン。ゲルマン系とラテン系。西洋の画と東洋の書。異分野の交流が興趣と示唆を齎し、既成の概念にとらわれることなく清新な作風と芸術観の可能性を探求する一助になれば幸いである。

 

泰永会国際交流展 実行委員長

横澤悦孝